Google Translate
日本の写真家・善財一の作品集『境界』。1980年代よりニコンやオリンパスのギャラリーで個展を開催し、現在は結晶・鉱物フォトグラファーとしても活躍している善財一。本書は、今はなき写真ギャラリーmoleより刊行された作品集で、鎌倉周辺の山々に鎌倉時代から室町時代にかけて建てられた「やぐら」をモチーフにした一冊で、薄暗いやぐらの中から、光が照らす下界の世界を写し出しています。巻末でも、中世からの鎌倉の歴史を調べ上げた知識を背景とした、筆者による詳細なテキストが記されていますが、元来は「墳墓」として建造されたやぐら。しかし、筆者はやぐらが鎌倉の山々に建造された意味の多層性にも言及しています。すなわち鎌倉という街は、東西に山裾が迫り、極めて狭い平地が家々で埋め尽くされており、地理的にも周囲の山々が防御壁となって、その山中にあるやぐらから中世武人たちが、鎌倉に住む人々の盛衰を見守っているのである。つまりは、元来やぐらは鎌倉というこの限られた土地を見守るためのもの、墳墓としての役割を超越した大変精神性の高い場所である、との考察を記しています。