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日本の戦後文学を代表する作家・中上健次(1946-1992)と、写真家・荒木経惟(1940-)による異色の共作『物語ソウル』。熊野の「路地」を舞台に独自の文学世界を築いた中上は、1980年代に韓国へたびたび足を運び、本書ではソウルを新たな物語の舞台に選びました。一方の荒木は、市場や路地、飲食店、街角を行き交う人々など、都市の日常に息づく生命力を鋭い感性で捉えています。物語は、夫を失い子どもを連れてソウルへ出てきた女性と、ベトナム戦争から帰還した男との出会いを軸に、仲間たちと富裕層から奪った財物を街へばらまく「義賊」のような行為や、性愛、暴力、共同体の崩壊を描きながら進行します。荒木の写真は小説の挿絵ではなく、1980年代初頭のソウルの現実を並走するもう一つの物語として配置され、フィクションとドキュメントが交錯する独特の読書体験を生み出しています。さらに構成・装幀は韓国を代表する現代美術家・李禹煥が担当し、文学、写真、美術が一冊の中で響き合う完成度の高い作品となっています。後年には荒木が中上健次の長女・中上紀と再びソウルを訪れた『再びのソウル「記憶」』へと発展しており、その原点としても重要な一冊です。帯付。