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昭和三十六年五月に刊行された『風俗奇譚』臨時増刊号は、戦後まもない日本で形成されつつあったアンダーグラウンド文化の熱をそのまま封じ込めた特別号で、通常号よりも写真図版と実録寄りの記事が多く、夜の社会の“生の記録”として独自の存在感を放つ一冊です。当時の風俗文化は公的な言説からこぼれ落ちる領域に置かれていましたが、本誌はその境界線に踏み込み、劇場、私的サロン、艶笑文化、性の実践といった題材を、露悪に堕ちず、観察者としての距離感を保ちながら拾い上げている点が特徴です。とりわけ増刊号では、女性モデルを起点とした写真構成や、読身体をめぐる儀礼性や支配・服従の構造に触れる記事が混在し、昭和初期から連なる“隠された文化史”の断片が立ち上がります。表現の節度を保ちながら、どこか湿度を帯びた昭和の夜の空気が誌面から立ち上がり、後年のサブカルチャーやSM文化研究の基層ともつながる濃度を残す号として、今日では資料的価値も高い存在と言えるでしょう。